INTRODUCTION

恐るべきクローネンバーグ家の遺伝子が現代を嗤う、
クリストファー・ノーラン、ドゥニ・ヴィルヌーヴに続く
異常すぎる才能が花開くブランドン・クローネンバーグ最新作。

見終わった観客は、自らの内にある最も暗い部分にまで引きずり降ろされ、
言葉を失うことになるであろう。

『ヴィデオドローム』『裸のランチ』などの鬼才デヴィッド・クローネンバーグの遺伝子を受け継いだ息子ブランドン・クローネンバーグが、セレブから採取したウイルスが売買される近未来を綴った長編監督デビュー作『アンチヴァイラル』に続き、その狂気をより一層洗練させて放つ8年ぶりの第二作。第三者の「脳」にトランスフォーム、所有者<ポゼッサー>として「人格」を乗っ取った上で殺人を行う完全無欠の遠隔殺人システムを舞台に、女工作員と人格を乗っ取られた男との生死を賭けた攻防を冷徹で研ぎ澄まされた映像美で描き切る。2020年サンダンス映画祭でワールドプレミア後、シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀監督賞をダブル受賞。各国映画祭で39のノミネートと15の受賞を果たすという圧巻の実績。さらに全米映画批評サイト・ロッテントマトでは、満足度94%の驚異的な高評価を獲得。昨年の第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門の上映では、父親譲りの様式美と執拗なバイオレンス描写で話題を集めたのも記憶に新しい、とてつもない一篇である。

「刺殺シーンで刺す回数を1回でも減らしたら、作品が台無しになっていたと思う」と監督自身が語る本作は、イタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェントがキャリア最高時に撮り上げた作品『オペラ座/血の喝采』の技術面を参考にしたというだけあって、鮮血の描写はなんとも美しい。独自の世界観を具現化するにあたり、フィジカルな特殊効果にこだわり抜き、おさめられた映像はすべて実際に行われたもの。CGは一切使われていない。スタイリッシュとグロテスクが共存する美しきハーモニーが織りなすその映像表現は、唯一無二の領域に達した。

主演に、『マンディ 地獄のロードウォリアー』『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』など、ホラー、カルト系の映画との好相性を予感させているアンドレア・ライズボロー。意識を乗っ取られる男に『ファースト・マン』ほか話題作への出演が続いている注目株、クリストファー・アボット。クエンティン・タランティーノの『ヘイトフル・エイト』での怪演も見事なジェニファー・ジェイソン・リー、“映画史上、最も殺された”俳優といわれる『ゲーム・オブ・スローンズ』のショーン・ビーンなどの実力派が脇を固めている。撮影監督はその残虐性で発禁処分を受けた『大脳分裂』を監督したカリム・ハッセン。音楽は『RAW 少女のめざめ』のジム・ウィリアムズが担当、印象的な低音で不快感と不安感を植え付ける。

本作で描かれているある種異様な世界は、ブランドン・クローネンバーグ個人の脳内に渦巻くイメージをその類まれな才能と技法により映像化したものである。それは観客の精神と肉体に直接働きかけ、確実に傷痕を残しダメージを与える。そして物語の核に触れたとき、どうにもならない戦慄に襲われ、心身の置き所がなくなる。

STORY

殺人を請け負う企業に勤務するベテラン暗殺者のタシャは上司の指令のもと、特殊なデバイスを使って標的に近しい人間の意識に入り込む。そして徐々に人格を乗っ取りターゲットを仕留めたあとは、ホストを自殺に追い込んで“離脱”する。この遠隔殺人システムはすべては速やかに完遂されていたが、あるミッションを機にタシャのなかの何かが狂い始める…。

REVIEW

溶けるような顔、グロテスクな殺人、
エイリアンのようなセックスシーン…
すべてに不穏なSFを増強する、今年最も衝撃的作品!

Irish Times

マインドコントロールされた女アサシンが実存的な危機に陥る様子を描いた、
ヒビの入ったスリラーは、ひとつの体外離脱体験である。

Rolling Stone

本作の純粋に恐ろしいストロボ映像は、
クローネンバーグ一族の遺産と格闘ながらも、
自分自身を確立しつつある映画監督示唆しています。

The Ringers

胃と脳がねじれるような新しいディストピア・スリラー。
私たちがすでに住んでいる世界に対して、不穏な疑問を投げかける最も悲痛な映画だ。

The Atlantic

血と肉と歯に彩られた、
史上最も娯楽性の高いテクノ・スリラー。

Independent(UK)

この10年で最高にスマートな映画のひとつ
独創的で不穏なSFと、胃をかきむしるボディホラーであり、
監督の父でありボディホラーの巨匠あるデヴィッド・クローネンバーグの作品をも凌駕する。

NewScientist

脳裏にこびりつくような幻覚と激しい暴力に満ちた本作は、見る者を魅了し疲れさせる。
爆発的なバイオレンスと同様に、自律性とアイデンティティについて疑問長く残る、
肌に染み入るような悪夢である。

ABC Radio

頭の中に入り込む超一級品のジャンル映画。
目を見張るような映像と、血に飢えた残虐なボディホラーで、家族の絆をも描き切る。

Timus(UK)

幻覚のようなウルトラバイオレンス内臓表現した凄まじい一作。
これは、クローネンバーグ・シニアだけでなく、押井守『攻殻機動隊』クリストファー・ノーラン『インセプション』、フィリップ・K・ディック『スキャナー・ダークリー』彷彿とさせる。

Little White Lies

ゴアを堪能できる豪華なマインド・ファック作品。
心引き裂く、深い傷跡を残すような、極めて残酷で魅惑的。

Time Out

悪夢のような配色と妊娠しているような気配のあるサウンドデザインを最大限に活用し、
混沌とした世界に引き込む…ウィリアム・ギブスンサイバーノワール的な要素が随所に見られる。

Boston Globe

STAFF

監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ

Brandon Cronenberg

1980年、カナダ・トロント生まれ。映画監督デヴィッド・クローネンバーグとドキュメンタリー映画製作者キャロリン・ザイフマンの息子。姉に写真家、監督のケイトリン・クローネンバーグがいる。「本のオタク」だと思っていたブランドンは、作家や画家、ミュージシャンになることを目指すが、映画にはそれら全ての要素が含まれていることに気づき、トロントのライアソン大学で映画を学ぶ道へ進む。2008年、有名人から採取したウイルスをお金を払って注射してもらう人々を描いた短編映画『Broken Tulips』を監督。この映画の発端はブランドンがかつてかかったウイルス感染だったと述べている。この短編は、初の長編映画『アンチヴァイラル』(12)のために執筆していた脚本をもとに映画化された。 『アンチヴァイラル』は、2012年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映される。この年のカンヌ国際映画祭では、父デヴィッドの作品『コズモポリス』(カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品)が『アンチヴァイラル』と共に上映されるという映画祭史上初の親子上映を果たし話題となる。映画祭終了後、ブランドンはこの映画をよりタイトにするために上映時間を6分近く短縮し再編集する。修正版は2012年のトロント国際映画祭で初公開され、最優秀カナダ長編映画賞を受賞。その後、シッチェス映画祭最優秀デビュー長編映画賞の市民ケーン賞を受賞。2019年、短編映画『Please Speak Continuously and Describe Your Experiences as They Come to You』は、カンヌ国際映画祭の国際批評家週間部門でプレミア上映され、パリのレトランジェ映画祭でカナル・プラス大賞を受賞、同年12月には東京国際映画祭のカナダ短編映画トップテンに選ばれる。2020年に完成した『ポゼッサー』の視覚・効果のアイデアは、『Please Speak Continuously and Describe Your Experiences as They Come to You』の撮影時の実験から生まれたものだとブランドンは述べている。同作品は、サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドラマティック・コンペティション部門でプレミア上映、トロント国際映画祭のカナダ長編映画ではトップテンに選ばれるなど、各国の映画祭で数々の受賞を果たした。

撮影監督:カリム・ハッセン

Karim Hussain

1974年、カナダ生まれ。2000年、『大脳分裂』の監督・脚本・撮影で話題になる。2002年には、近未来を舞台に3人の選ばれし女性を描いたSFサスペンス『アセンション 終焉の黙示録』を監督・脚本する。撮影監督としては、『テリトリーズ』(10)、ブランドン・クローネンバーグ監督の『アンチヴァイラル』(12)、ホラーバトル映画『ABC・オブ・デス』(12)、アフガニスタンに派遣されたカナダ兵たちの戦いを描き、カナダ版アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『ハイエナ・ロード』(15)。精神科医ハンニバル・レクターを描いたテレビシリーズ『ハンニバル』(13-15) などがある。

編集:マシュー・ハナム

Matthew Hannam

1981、年カナダ生まれ。編集部門で2度のカナダ・スクリーン・アワード受賞者であり、2013年、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『復製された男』で第2回カナダ・スクリーン・アワードの最優秀映画編集賞を受賞、シリーズ『Sensitive Skin』で第3回カナダ・スクリーン・アワードのコメディ・シリーズ最優秀編集賞を受賞。その他、ダニエル・ラドクリフとポール・ダノ主演の『スイス・アーミー・マン』(16)、クリストファー・アボット出演の『イット・カムズ・アット・ナイト』(17)、ポール・ダノ監督の『ワイルドライフ』(18)、ナタリー・ポートマン主演の『ポップスター』(18)などある。

音楽:ジム・ウィリアムズ

Jim Williams

イギリス生まれ。レッド・ツェッペリンやデビッド・ボウイ、エリック・クラプトンなども受賞したイギリスのソングライター・作曲家に贈られるアイボア・ノヴェロ賞を受賞した作曲家・ギタリスト。 2013年、清教徒革命時のイングランドを舞台にしたフォークホラー『ア・フィールド・イン・イングランド 』、2016年のジュリア・デュクルノー監督『RAW 少女のめざめ』で第43回セザール賞最優秀オリジナル音楽賞を受賞。2021年、再びデュクルノー監督とタッグを組んだ『チタン/TITANE』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。その他、『Beast』(17)ではBIFA賞の最優秀音楽賞にノミネートされる。

CAST

アンドレア・ライズボロー(タシャ・ヴァス)

Andrea Louise Riseborough

1981年、イギリス生まれ。幼い頃から読書や演技が好きだったアンドレアは、9歳のときに初めて子役として、地元ニューカッスルの劇場で舞台女優デビュー。その後、ナショナル・ユース・シアターに所属し、演劇「Dog Days」(99)でマイク・フィギス・アワードを受賞する。2005年、ロンドンの由緒正しい王立演劇学校(RADA)を卒業し、名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに所属。2006年のロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演ストリンドベリ作『令嬢ジュリー』と、シェイクスピア作『尺には尺を』の演技によりイアン・チャールソン賞を受賞。テレビでは2008年『The Devil's Whore』で王立テレビジョン協会賞を受賞。若きサッチャーを演じた『マーガレット・サッチャー 政界を夢見て』(09)で英国アカデミー・テレビジョン賞の女優賞にノミネートされる。映画ではマイク・リー監督の『ハッピー・ゴー・ラッキー』(08)、カズオ・イシグロ原作の『わたしを離さないで』(10)、『ブライトン・ロック』(10)では第13回英国インディペンデント映画賞の主演女優賞と新人賞にノミネートされた。その後、マドンナが監督した『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(11)でウォリス・シンプソンを演じる。『シャドー・ダンサー』(12)で再び英国インディペンデント映画賞の主演女優賞にノミネートされ受賞を果たす。トム・クルーズ主演の『オブリビオン』(13)でハリウッドデビュー。第87回アカデミー賞作品賞受賞の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)で主人公の恋人役を演じた。その他、トム・フォード監督『ノクターナル・アニマルズ』(16)、エマ・ストーンの恋人役を演じた『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(17)、『スターリンの葬送狂騒曲』(17)、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(18)、『ナンシー』(18)、『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(19)、『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』(20)など様々なジャンルで活躍する。

クリストファー・アボット(コリン・テイト)

Christopher Abbott

1986年、アメリカ生まれ。イタリア系とポルトガル系の血を引くアボットは、地元のビデオ店や友人のワインショップで働く。ノーウォーク・コミュニティ・カレッジに通った後、HBスタジオで演技の勉強を始める。 エリザベス・オルセンと共演した『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11)で長編映画デビューを果たす。2012年、サンダンス映画祭でプレミア上映されたコメディドラマ映画『Hello I Must Be Going』でメラニー・リンスキーと共演、高い評価を受ける。HBOのコメディドラマシリーズ「Girls」で、マーニー役(アリソン・ウィリアムズ)の甘くておとなしいボーイフレンド、チャーリー・ダトロを演じ世間の注目を集める。2015年の第31回インディペンデント・スピリット賞では、『James White』で、主演男優賞にノミネートされた。その後も、ジョン・トラボルタと共演の『クリミナル・ミッション』(15)、オリヴィア・クック共演でトロント国際映画祭プレミア上映された『グッバイ、ケイティ』(16)、『アメリカン・レポーター』(16) 、『スウィート・ヘル』(17) 、ジョエル・エドガートンと共演のサスペンス・ホラー映画『イット・カムズ・アット・ナイト』(17) 、ライアン・ゴズリング演じるニール・アームストロングのNASAミッションを描いた『ファースト・マン』(18)の宇宙飛行士デビッド・スコット役、ミア・ワシコウスカと共演の村上龍の小説をもとに描いたサイコ・スリラー『ピアッシング』(18) 。その他、テレビではジョセフ・ヘラーの同名小説を原作とした2019年のミニシリーズ「Catch-22」で主役のジョン・ヨサリアンを演じ、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされる。また、ブロードウェイやオフブロードウェイの作品に出演するなど舞台でも活躍する。

ジェニファー・ジェイソン・リー(ガーダー)

Jennifer Jason Leigh

1962年、アメリカ生まれ。父親は俳優のヴィック・モロー、母親は女優で脚本家のバーバラ・ターナー。両親は彼女が2歳の時に離婚している。女優として子供の頃から端役で映画に出演する。1980年に『他人の眼』で映画デビュー。初めて大きな成功を収めたのは、『初体験 リッジモント・ハイ』(82)の主役であった。1990年に出演した『ブルックリン最終出口』、『マイアミ・ブルース』の2作品で役柄のかなり異なった娼婦役を演じ、ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞及びボストン映画批評家協会賞助演女優賞を受賞。1994年、『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華』で第29回全米映画批評家協会賞と第7回シカゴ映画批評家協会賞で主演女優賞を受賞と同時に、ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされる。1995年『黙秘』では名女優キャシー・ベイツと互角に渡り合う演技を見せ話題になる。1999年には、脊髄にゲーム端末を差し込む奇妙な世界を描いたデヴィッド・クローネンバーグ監督『イグジステンズ』に出演し、天才ゲームデザイナー役を演じる。2001年、『アニバーサリーの夜に』では俳優のアラン・カミングと共同で監督・脚本も手掛け、第54回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、インディペンデント・スピリット賞にもノミネートされる。2015年、クエンティン・タランティーノ監督作品『ヘイトフル・エイト』出演し、アカデミー助演女優賞にノミネートされる。夫は映画監督ノア・バームバック。息子がいるが2013年に離婚。

ロシフ・サザーランド(マイケル・ヴォス)

Rossif Sutherland

1978年、カナダ生まれ。父親は名優のドナルド・サザーランド。弟にアンガス、ローグ、異母兄のキーファーがいる。リチャード・ドナー監督の『タイムライン』(03)で、若いフランス人考古学者役としてプロデビューを果たす。初の主演はクレメント・ヴィルゴ監督の『Poor Boy's Game』(07)で、刑務所から出所したばかりのアマチュアボクサーが贖罪の旅に出る役を演じる。その後、ゲイリー・イェーツ監督の『ハイ・ライフ』(09)に出演し、看護師を誘惑して薬を手に入れるモルヒネ中毒者の演技が評価され、カナダのジニー賞にノミネートされる。

タペンス・ミドルトン(エヴァ・パース)

Tuppence Middleton

1987年、イギリス生まれ。 グラマースクールの生徒時代から演劇活動に参加していた。その後、ロンドンのチジック地区にあるアーツ・エデュケーショナル校で演劇を本格的に学ぶ。2010年には、ロンドン・イブニング・スタンダード・フィルム・アワードの「最も有望な新人」賞にノミネートされる。モーテン・ティルドゥム監督の歴史ドラマ『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14)でブレイクし、その後、ウォシャウスキー姉弟(当時)監督のSF映画『ジュピター』(15)、映画『ダウントン・アビー』(19)、デヴィッド・フィンチャー監督の映画『マンク』(20)などに出演する。

ショーン・ビーン(ジョン・パース)

Sean Bean

1959年、イギリス生まれ。1980年にロンドンの名門校、王立演劇学校(RADA)を卒業後、1983年に「ロミオとジュリエット」の劇場公演でデビューする。1990年の『ザ・フィールド』で見せた牛の群れと一緒に崖から落ちる場面など、インパクト大な死亡シーンも多いことから、いつしか「よく死ぬ俳優」としても知られるようになる。死ぬシーンだけを集めた動画集がユーチューブに存在する。その他、『パトリオット・ゲーム』(92)、『007 ゴールデンアイ』(95)などアクション大作を始め印象的な悪役を演じる。2003年、大ヒットファンタジー『ロード・オブ・ザ・リング』のボロミア役で一気に知名度を上げる。

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